【SS】雲、悪戯に魔女を食らう。【その1】  R18


「で、何をしにいらしたのですか?」
「うん?」

アルティミシア城の螺旋の上。対峙する雲と魔女。
二人の間にはキラキラ輝くEXコア。お互いに手を伸ばせば届きそうな位置にあるそれを、狙っているのかいないのか。
距離を詰めるも離すもせずに、ただ相手の目を見つめて対峙。

「何をしにいらしたのですか、と聞いたのです。貴女が此処に来るなんて、珍しいを通り越して天変地異の前触れです」
「相変わらず笑えもせん冗談が上手いな魔女よ。わしがここに来てはいけないとでもいうのか?」
「いけないわけではありません。しかし不愉快です。私に断りもなく無断で侵入するとは、一体どういうつもりなのですか?」
「断るも何も、このような朽ちた城、何処からだろうと入れるだろう。入口らしい入口などない壊れかけの城に、いちいち断りを入れて入ったところで何も出てきはしない。事実お前はわしに茶の一つも出さん。全く礼儀のなっておらん魔女よ」
「貴女に礼儀がどうだととやかく言われる筋合いはありません。さぁ、私に口喧しくお説教をたれる他に用がないのなら、さっさと何処かへ去りなさい雲。私は他者に構う暇はあっても貴女に構う暇はないのです」

じり。
魔女の足が半歩EXコアへと近づいた。光の帯は魔女の体に僅かに流れ込み、その力をゆるやかに魔女へ送り込んでいく。
しかし反対側にいる雲も同じく半歩EXコアへと近づいた。魔女に流れる光の帯は、二股になって雲へもその流れを移していく。

「用がないなら帰れと言っているのです」
「用があるからここにいる」
「何の用があると言うのですか」
「何の用があると思う」
「私をからかっているのですか?」
「からかってやってもよいが、生憎別の用で来た」
「だから、その“用”を早く言って下さい」
「今日こそお前の体を食らい尽くす」
「……。」

雲の用件を聞いた魔女は呆れた顔で溜め息をつく。全く雲の頭の中にはそんな事しかないのだろうか。いや違う。雲の頭はそんな事で構成されているのだからが仕方ない。魔女は雲の言葉に羽根を広げると、残像が残る程の素早い動きで目の前のEXコアを奪い取る。

「用件はわかりました。わかった以上貴女にコアを渡すわけにはいきません。勿論ゲージを溜めさせるわけにもいきません」
「ほう。ならばどうする魔女よ。戦えば図らずともゲージは溜まっていくぞ」
「戦いません。逃げます」
「何?」

言うが早いか魔女は一目散に逃げ出した。

 

続く