【SS】雲、魔女と改魔女を間違える【前編】


「ねぇミシア」
「何ですアル?」

パンデモニウム(真)の片隅で皇帝を串刺しにしながら遊んでいた改魔女から声を掛けられ、付き添いでここを訪れていた魔女は短く言葉を返した。

「貴女のパートナーであるあの頭の中が万年花畑の赤き雲、少しからかってやりましょうか」
「何ですか突然。大体私はパートナーになったつもりはありません」

魔女は改魔女の言う自分の“パートナー”を頭に思い浮かべると、その映像を払うように頭を振って吐き捨てる。

「あら。する事をしておいてパートナーじゃないだなんて…まぁいいでしょう。とにかくもう皇帝を串刺しにして遊ぶのは飽きました。赤き雲の低能ぶりを明らかにする為にも、やはり存分にからかってやらねば」
「飽きたって………まぁ、気乗りはしませんがアルがどうしてもと言うなら仕方ありませんね」
「それでこそミシア。いい子ね。では、早速服をお脱ぎ?」

ニッコリ微笑みながら手を伸ばしてきた改魔女に魔女は訝しげに眉を寄せた。
何故服を脱げと?このタイミングで何故服を脱げと?

「………アル。私の服を脱がせて何をする気ですか」
「あら。そんなに警戒しなくても…大丈夫、何もしませんから。ただ服を交換するだけです」
「服を交換…?」
「えぇ。あのムッツリスケベのお馬鹿さんが、ちゃんと貴女を見ているのかどうか確かめてやるのよ?」
「からかってやるのではなかったのですか?」
「間違ったら間違ったで大いに嫌みを言ってやります。ふふふふふ」
「………私は間違われ損な気がしますが」
「大丈夫よミシア。パートナーである彼女を信じておあげなさい。まぁ私は微塵も信じていませんが。ミシアのような可愛い妹をあんな爬虫類に奪われるなんて、今でも納得いきません」
「爬虫類かどうかは別として、別に私は奪われたわけでもなければパートナーでもないわけで…」
「とにかく!!さぁミシア。服を寄越しなさい?あの淫乱蛇雲のはなを明かして差し上げましょう」
「………はぁ」

意気込む改魔女の迫力に負けたのか、魔女は仕方なく服を交換するとすっかり見た目は改魔女へと成り変わる。

「まぁ。さすがは双子ね。まさに私が目の前にいる様」
「そもそも服でしか見分けられていないんですから、交換したらそりゃあもうどっちがどっちだかわからなくなるでしょう。私自身しばらくしたら自分が誰なのかわからなくなりそうです」
「大丈夫よミシア。ほら、まだ髪飾りという判別基準が残っていますよ」
「これまで変わったらもはや自分達でも判別不可能ですね」
「まぁ髪飾りはささやかなサービスヒントですからね。これでわからなかったらエンドオブメモリーズどころでは済ましません」
「何も攻撃しなくても」
「いいえ。散々ミシアの中に種を残したくせに、簡単に私とミシアを間違えるようでは困ります」
「いかがわしい言い方はやめて下さい。種だなんて破廉恥な」
「とにかく赤き雲がちゃんと貴女を見極められるかどうか、確かめに行きますよ」
「………はぁ」

やはり気乗りのしない魔女だったが、確かに雲の気持ちは少し気になる。
ちゃんと自分を見ているかとか、自分だからこそ抱いているのかとか、そんな“女”な考えが頭にちらつき顔が赤らんだ。

馬鹿だ。別に雲にどう思われようが関係ない。自分は姉と青き雲のようにイチャイチャラブラブした関係など望んでもいなければ夢にも思っていない。
ただ求められるから体を晒すだけ。拒むのも面倒だから。

でも受け入れるのは面倒ではない。
受け止めるのも、応えるのも。どれも面倒ではないなら、やはり雲だからという理由で体を晒すのか。
違うと言いたいが、言い切れない自分がいる。

魔女はイマイチ自分の気持ちに素直になれなかった。

「ほらミシア。見なさいあれを。性懲りもなくまた蛇と戯れていますよ?」
「別に戯れているのではなく普通に付属物だから一緒にいるだけでは?」
「そこの赤き雲。止まりなさい」
「話を振っておいて無視ですか」

ツカツカと雲へと歩いていく改魔女の後をノロノロと追い掛け、魔女は改魔女の服を着こんだまま雲の前に立った。

「何だ魔女姉妹。わしに何か用か?」
「赤き雲。私が誰だかわかりますか?」
「は?」

魔女の格好をした改魔女が雲へとそう問い掛ければ、雲は一瞬目をパチクリさせた後に高らかと笑って蛇を叩いた。

「何を言うかと思えば。お前は底無しの阿呆だな。誰がどう見ても魔女であろう。間違えるわけがあるまい。何度抱いたと思うておるのだ」
「あら。貴女、そんなに私を抱いたのですか」
「忘れたとは言わせんぞ。昨夜も気を失うまで抱いてやっただろう」
「………そうなのですか?ミシア」

魔女の格好をした改魔女が隣の“魔女”に問い掛ければ、改魔女の格好をした本物の魔女は明らかに不愉快そうな顔で雲を睨み付けていた。

「そうですか。雲。貴女はアルをお抱きになっていたのですか」
「…は?」
「まだわかりませんか。そっちはアルで、私がミシアです」
「……………………なっ……何っっ???!!!!!!!!」
「すいませんね雲。今までアルだと思って私を抱いていたのでしょう?本当はアルが良かったのですね。わかりました。私は潔い魔女ですから、大人しくアルに“パートナー”の座をお譲りします。さようなら雲。ごきげんよう」
「まっ、待て魔女っっ!!!!!!!今のはちょっとした冗談…っ…」
「アル。今後は雲姉妹を相手に何かと苦労するかもしれませんが、私、一切お手伝いしませんので。悪しからず」

振り向きもしないでサッサと立ち去る魔女を追い掛けようとする雲に、改魔女はニヤリと笑って立ち塞がる。

「いけませんね赤き雲。散々種を残した女を間違えるとは。気持ち無き性交の表れですね」
「黙れ地味…いや今は派手だが…!!とにかく邪魔をするな!!そこをどけっ!!」
「これ以上ミシアに手を出す事は許しません。貴女はこれから私の管理下に置かれるのです」
「たわけっ!!誰がお前などに管理されるか!!」

そう言うと雲は足元に作り出した闇を通り抜け、アッサリ改魔女の妨害をすり抜けた。

「あら。つまらない」

魔女を追い掛け去っていく雲を見やりながら、改魔女はまたも飽きてしまったのか自分のパートナーである青き雲を探しにフラフラと立ち去ってしまった。

 

続く