【SS】お前の名前【赤雲×ミシア】 09/03/18



「ねぇ雲」
「なんだ」

二人して何をするでもなく空を眺める。
青い空。白い雲。今日も異説の世界は平和そのものだ。

「貴女は何故私を“魔女”と呼ぶのですか?」
「は?何を言うかと思えば…魔女を魔女と呼んで何が悪い」
「確かに私は魔女ですが…青き雲はアルを名前で呼んでいます」

確かに青雲はアルを呼ぶとき必ず“アル”と名前で呼んでいる。しかし赤雲は何故かミシアを“魔女”と呼ぶのだ。

「あの時は、呼んでくださったのに」
「………」

以前久方ぶりの発情期に見舞われた赤雲が、ミシアと交わりを交わした夜の事。赤雲は確かにミシアを名前で呼んだ。
たった一度きりでも、確かに赤雲はミシアの名前を囁いて果てた。

「別に呼んで欲しいわけではありません。ですが、何だか少し納得がいかないので」
「あの地味魔女が名前で呼ばれているのに、自分は“魔女”などと呼ばれている事がそんなに不満か?」
「不満などではありません。ただ…何となく、貴女が私の名前を呼びたくないのかと…思うだけです」

ミシアの声はあまりに小さくて、そよそよ吹き抜ける風にさえ掻き消されてしまいそうだった。
そんなミシアの髪が風に揺られてキラキラと綺麗な銀色に輝く度に、赤雲は幾度となくミシアに心を奪われて、幾度となくミシアに釘付けになる。

「わしがお前の名を呼びたくない、だと?はっ、馬鹿馬鹿しいな」
「あら。貴女には馬鹿馬鹿しいのがお似合いでしょうに」
「たわけ魔女っ子。柄にもなく思い耽るな。皺が増えるぞ」
「余計なお世話です。全く貴女にはデリカシーというものがないのですか?」
「お前に言われたくない」

青い空に吹いた爽やかな風に、モコモコとした白い雲がゆらりゆらりと流されて消えていく。
二人の間に再び吹き抜けたそよ風に、赤雲は小さく小さく言葉を乗せた。

 

 

 

「お前の名前なら、わしはいくらでも呼んでやろう」

 

 

 

 

囁きの続きは甘い口付けに消えた。